わんちゃん、猫ちゃん、フェレットさんと暮らす皆さまに、ぜひしっかりと予防していただきたい病気の1つが「フィラリア症」です。予防薬の投与を毎年行っている方も多いと思いますが、なぜ毎年予防をしなければいけないのか、予防をしないとどうなるのか、といった疑問を持つこともあるのではないでしょうか。今回は、フィラリア症についてお話したいとおもいます。
当院のフィラリア予防対象動物
犬のフィラリア症
フィラリアってなに?

わんちゃんと暮らしている方は、「フィラリア」もしくは「フィラリア症」という言葉を耳にすることがあると思います。
フィラリアは、正式には犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)という寄生虫で、そうめんのように細長い形をしていて、成虫になると15〜30 cmほどの大きさになります。
この寄生虫は蚊が運ぶことで動物の体内に入り、肺動脈や心臓に住み着きます。すると、心臓や肺の働きが悪くなったり、血液の流れが悪くなったり、内臓に負担がかかったりと重い症状を引き起こします。
フィラリアに感染することで起こる病気を「フィラリア症」といい、昔は犬の死亡原因の1位だった、とても怖い病気です。犬だけでなく、猫やフェレット、人にも感染することのある人獣共通感染症でもあります。
日本はフィラリアが多い地域なので、予防をしなければ犬は高い確率で感染します。猫やフェレットも犬ほどではありませんが、感染することがあります。
最近はフィラリア症にかかった犬を見かけることは少なくなりましたが、それは飼い主さんが毎年予防をしてくれているおかげで、フィラリアが少なくなったわけではありません。
フィラリアはどうやって感染するの?
フィラリアは、「蚊」に刺されることで感染します。トウゴウヤブカやアカイエカなどの蚊がフィラリアに感染した犬を吸血すると、感染犬の血液中に存在する、ミクロフィラリアというフィラリアの幼虫が蚊の体内に取り込まれます。取り込まれたミクロフィラリアは、蚊の体内で2回脱皮して、他の動物への感染力を持った第3期幼虫に成長します。第3期幼虫は蚊の吸血針で待機し、他の動物の吸血時に刺し傷から体内に入ることで感染が成立します。
動物の体内に入った第3期幼虫は、皮膚や脂肪、筋肉に住み着き、脱皮を繰り返して成長して第5期幼虫になります。感染から70〜140日ほどで、3 cmほどの大きさになった第5期幼虫は体内を移動して血管内に侵入します。その後、本来の寄生場所である肺動脈に移動し、15〜30cmほどの大きさの成虫となります。この性成熟した成虫が繁殖してミクロフィラリアを産出し、感染した動物の血液中にミクロフィラリアが存在するようになります(ミクロフィラリア血症といいます)。感染からここまでで早くて6ヶ月です。

フィラリアに感染するとどうなるの?
本来のフィラリアの寄生場所は肺動脈です。フィラリアに寄生された肺動脈では、虫体により直接傷害されたり、炎症反応が起こります。すると肺動脈の内腔が狭くなることで血液が通りにくくなり、肺動脈の血圧(肺動脈圧)が高くなります。これを肺高血圧症といいます。肺動脈圧が上昇すると、右心室に負担が生じて、右心室の機能低下(右心不全)が起こります。この右心不全により、様々な症状が引き起こされます。
感染したばかりの初期では症状が現れないことが多いです。症状の発現には、フィラリアの寄生数の多少や寄生期間、血管や肺の病変の程度など、様々な要因が関係しており、通常は感染から2〜3年をかけて慢性的に進行していきます。以下が、一般的にみられる症状です。
<初期症状>
- 咳がよく出る
- 軽い運動で疲れる
<進行するとみられる症状>
初期症状に加えて、
- 痩せてくる(悪液質)
- 呼吸が苦しくなる
- 急に倒れる、失神する
- お腹が膨らむ(腹水貯留)
- 赤い尿が出る
- 血を吐く(喀血)
フィラリアに寄生された犬の多くは慢性の経過をたどりますが、大静脈症候群(ベナケバシンドローム)という急性経過を示すこともあります。大静脈症候群では、呼吸困難や赤い尿が突然みられ、ショック状態に陥ります。速やかに虫体を摘出しないと、死亡してしまう可能性が高い怖い状態です。
どうやって予防するの?
毎月1回、予防薬を投与することでフィラリア症を予防します。
フィラリア症は一度感染すると治療するのは非常に困難ですが、薬をきちんと投与すればほぼ100%予防が可能な病気です。ですので、予防薬の投与がとても重要になります。フィラリアは蚊によって媒介されるため、予防薬を投与する期間はおよそ、「蚊を見かけ始めた時期から見かけなくなった次の月まで」です。すなわち、地域にもよりますが「5月から12月まで」の予防を推奨しています。
フィラリア予防薬は、実は予防薬ではなくフィラリア幼虫を駆除する「駆虫薬」です。蚊に刺されて犬の体内に入ったフィラリアの幼虫を、1ヶ月にまとめて薬で駆除する仕組みです。そのため、蚊を見かけなくなった月の1ヶ月後まで薬を投与することが勧められています。
また、フィラリア予防薬は主に第3期幼虫、第4期幼虫に作用します。それ以降に成長すると薬の効果が低下するため、毎月投与する必要があります。

また、フィラリアの予防には薬の投与が欠かせませんが、なるべく蚊を寄せ付けないことも大切です。蚊は、気温が15度以上になると吸血活動を開始するといわれています。蚊の発生源である水の溜まり場を除去したり、蚊の活動がピークになる夕方や夜明けの外出を避けるなどの工夫も予防に効果的です。
「室内飼いで外に行かないので、予防しなくてもいいですか?」という質問を受けることがあります。ワンちゃんが外に出なくても、蚊は気がつかないうちに室内に侵入することがありますので、お家の中だけで過ごすワンちゃんにも予防をしてあげてくださいね。
フィラリアの検査方法は?
フィラリア予防薬は、そのシーズンの投与開始前に、感染していないか検査する必要があります。フィラリアに感染した状態で予防薬を投与してしまうと、重篤な副反応が起こる可能性があるためです。フィラリアに感染してしばらく経過した犬の血液中には、ミクロフィラリアが存在します。この状態で駆虫薬であるフィラリアの薬を投与してしまうと、血液中のミクロフィラリアが死亡します。すると大量の死骸が血管に詰まったり、激しいアレルギー反応でショック状態に陥る可能性があります。
フィラリアの検査方法には「ミクロフィラリア検査」と「抗原検査」の2種類があり、どちらも少量の血液を採取することで実施が可能です。
ミクロフィラリア検査

ミクロフィラリア検査は、採取した血液中にミクロフィラリアがいないかを顕微鏡で直接確認する方法です。ミクロフィラリアが感染した犬の血液中に現れる、感染から6ヶ月以降に検出が可能です。ですが、オカルト感染といって成虫のみが存在し、幼虫のミクロフィラリアが存在しない場合は偽陰性となることがあります。
抗原検査
抗原検査では、簡易検査キットを使用します。少量の血液で実施が可能で、15分程度で結果が出ます。この検査キットではフィラリアのメスの成虫の抗原を検出するため、オスだけが寄生していた場合や寄生数が少ない場合、成虫に成長していない場合(感染から6ヶ月程度)などは偽陰性が出ることがあります。
当院では、両方の検査を併用して実施しています。
また、フィラリア症を疑う場合には心臓エコー検査を行い診断する場合もあります。
「昨年の予防シーズンに予防薬を投与していたのに、今年も検査をしないといけないの?」という質問をいただくことがあります。毎年、予防薬の投与開始前には検査が必要となります。毎月予防薬をしっかり投与していたとしても、投与後に吐き出してしまっていたり、予防薬がきちんと効いておらず感染してしまっている可能性があるためです。気づかずに感染してしまっているところに予防薬を投与すると危険が伴うため、前シーズンでしっかり予防できていたかどうかを検査で確認しましょう。
不幸にもフィラリアに感染してしまった場合、治療は大変難しく年単位の長い期間を要します。リスクも伴うため、予防が最善の治療法です。
猫のフィラリア症
ワンちゃんよりも感染率は低いですが、猫もフィラリアに感染します。猫がフィラリアに感染した場合、フィラリアのほとんどは成虫まで成長せず、感染猫では通常1〜3匹の成虫しか保有していないことが多いとされています。犬と比べると少数の寄生ですが、慢性の咳や嘔吐、呼吸困難などの症状を引き起こし、重篤な症状となったり、突然死することもあります。
猫に寄生したフィラリア成虫はミクロフィラリアを産出することはほとんどないとされています。成虫数が少ないこと、ミクロフィラリアが血液中に見当たらないことから、犬と比べて診断は困難なことが多く、感染に気づかれない事もあります。また、治療も難しく、リスクを伴うため、予防をすることが最善の治療法となります。
予防は、月に1度、首の後ろ付近に液状の薬を滴下するスポットタイプの薬をお勧めしています。お外に出る猫ちゃんはもちろん、完全室内飼いの猫ちゃんも、室内に侵入した蚊に刺されるリスクがあるため予防をしましょう。「嫌がるのでおうちで使用するのは難しいな」という方は病院で投与する事もできますので、お気軽にご相談ください。
フェレットのフィラリア症
ワンちゃん、猫ちゃんと同様に、フェレットもフィラリアに感染します。フェレットのフィラリア感染率は猫よりも高く、犬と同程度とされています。フェレットの心臓や肺動脈は小さいため、フィラリアが少数寄生しただけでも重篤な症状となることが多く、突然死することもあります。症状は咳や嘔吐、呼吸困難、食欲低下や運動失調などです。また、フィラリアに感染したフェレットの約80%でビリルビン尿という緑色の尿が出るといわれています。診断は犬猫同様に抗原検査やミクロフィラリア検査を実施しますが、ミクロフィラリアの検出率は50%程度で、成虫の寄生数も少数のために犬と比べて診断は難しくなります。フェレットのフィラリア症の治療法も確立されておらず、予防することが最も大切です。
感染してしまうと大変ですが、予防は簡単に行うことができるため、ぜひ予防をしてあげてください。月に1度投与する粉末タイプか、首の後ろ付近に液状の薬を滴下するスポットタイプの薬をお勧めしています。


